チャーリー・パーカーで悟りを開く

チャーリー・パーカーの生きた時代は、丁度録音技術が飛躍的に良くなる直前の時代であります。したがって、良い音質の録音があまり残っていません。ボアボアチリチリの音質から、あの凄まじいアルトサックスのソロが飛び出してきます。しかもまだSP時代だったので、長くても3分半しか演奏時間がなく、テーマと各楽器のソロが、短い時間に無理矢理圧縮されたかのように収められています。
つまり聴くのに苦痛を伴います(私は苦痛に思った事は一度もないけど)ダイアルのコンプリート盤など、全てのテイクを入れてあるので、同じ曲が何回も連続します。
くり返しくり返し苦痛を伴いながら、何度も何度も聴いている内に、ある日突然雷に打たれたように、チャーリー・パーカーの素晴らしさが解ったのだ!という、この上もない高揚感と、エクスタシーにも似た、もの凄い感動を味わうという状態に至ります。このような同じ体験をする人が、少なからず居られるんですね。
それってなんだか危ない新興宗教マインド・コントロールと同じみたいです。
教祖のわけのわからない教義を、長期間くり返しくり返し聞いている内に、ある日突然教義の意味が解ってしまう(解ったように錯覚する)というプロセスと、変に同じなので面白いのであります。
悟りの後は音質の悪さなどまったく気にならなくなり、むしろあのボアボア感チリチリ感が快感になってしまったりします。
ところでこれは、ダイアル版のマスターテイク集(一部別テイク)なので、そんなに苦痛なく悟れます(楽しめます)。

パーカーは生涯酷い麻薬中毒で、2曲目のムース・ザ・ムーチェは彼が付き合っていたヤクの売人の名前だそうです。収録曲のリラクシン・アット・カマリロは、彼が麻薬中毒で入院していたカマリロ病院にちなんだタイトル。凄まじい生きざまです。
ベレー帽が、パーカーの頭に貼り付いているように見えますが、ジャケットも時代を感じさせて楽しいデザインです。