エリック・ドルフィーは純文学だ

まだ私が20代後半か30歳くらいの頃。友人のデザイナーに「最近おれ太宰治ばっか読んでいるんだ」と言うと、彼は「どうしたんですか、暗いですね〜」と言われてしまった。そういえばいつもはSFとかミステリーの話しが多いのに、突然太宰では、彼も驚いたのだろう。「人間失格」だもんね、たしかに暗い。なにしろ自殺未遂の小説だ。そういった人間の暗部を見つめ、心のうめきや叫びに触れることで、自己を確かめるという芸術が、人生の中で一度や二度は必要になるものではないかと思うのであります。私にとって、エリック・ドルフィーはまさにそれで、音楽の太宰治なのであります。
エリック・ドルフィーは暗い。その暗さや、過剰とも思える叫びの表現が素晴らしい。
ドルフィーはフルートでは泣き、アルトサックスでは叫び、バスクラリネットでは、グロテスクに呻く。
太宰は一冊読むと、その後どんどんと何冊も読んでしまう。このファイブ・スポットのエリック・ドルフィーも、第1集を聴くと、すぐ第2集も聴きたくなる。
Eric Dolphy At The Five Spot, Vol. 2

Eric Dolphy At The Five Spot, Vol. 2

後年この日の演奏からもう一枚レコード化されたメモリアルアルバムも買ってしまった。先日書いたゴールデンサークルのオーネット・コールマンなど、一枚買ったらあとは聴かなくていいかなって気になるけど、エリックドルフィーは違うんだなぁ、やっぱ太宰なんだなあ。
Memorial Album: Recorded Live At The Five Spot

Memorial Album: Recorded Live At The Five Spot

トランペットのブッカーリトルが大好きだ。彼の存在もこのレコードの魅力だ。タイムのブッカーリトル聴くと、退廃と前衛感がある。ドルフィーにもしかり、この二人その辺がぴったり合うのだろう。このセッションのすぐ後、リトルは亡くなってしまう。ドルフィーもかなり悲しかったろうに。理想のオリジナルコンボが輝ける誕生を迎えたライブだというのに…。う〜む、どんどん暗い話になってしまう。
さらに、ピアノがマル・ウオルドロンだ。くろぐろとした同じようなフレーズをくどくどと弾くのがたまりません。なにしろレフトアローンだもの、増々暗いなあ。
この、3枚のCDはあるときから、パタっと聴かなくなるんだ。太宰もね。
でも、数年に一回、また集中して聴きたくなるんだ。バーボンとか飲みながらね…。やはり名盤だよね。